linked
カヌー横で疾走するモスグリーンの分厚い背中、怪獣のようにゴツゴツした頭と顎、それに咥えられながら水中で宝石のように光るヴァンガード、最後に見た大きな尾びれと渦。
胸が痛むあのシーンが脳裏に焼きついて、それは釣り熱が冷めるほどにひどく落ち込んだ。
当時仲間も手助けしてくれて随分と探したし、さすがに望みは薄いと思いながらも諦めきれず、下流に流れ着いた流木や無数のゴミをパドルで掻き分けて探したりもした。
ところが最後。流れ着いたそれらを回収すると思われるクレーンの存在に気づいてしまったことで悟り、気持ちに区切りをつけたのがつい先日のこと。
*
そんな折、フリマサイトにCCRBのヴァンガードが出品された通知が入る。
傷だらけでフックもないので躊躇ったけど、少しでも気を紛らわせたらという思いが強く急いで購入ボタンを押した。
それからじっくり写真を確認していると
左目に少し違和感があることに気づく。
失ったヴァンガードはぶつけて左の黒目が少し削れてしまったのでリタッチしてあったのだけれど、なんだかそれのように見えてきた。
カメラロールにある過去の写真を拡大して比べてみると、左右の黒目の大きさやレインボーの色が載った幅も似ている。
フックがないのは不自然に思っていたけど、長らく水に晒されて錆びてしまっていたのを外されたことでそれも合点がいく。
スナップがついているのはきっとこの人が拾ったときに試しで投げてみた時のだ。
そうじゃないか?そうであってほしい。
いよいよ興奮してきて確認せずにはいられなくなり、失礼かとは思いながらも取引開始の挨拶と合わせて恐る恐る出品者に連絡を取ってみる・・・
鳥肌がたった。
返事は自分が失くしたフィールドで拾ったという内容。
回収の状況を詳しく聞いてみると、最後の望みをかけて下流で探した3月のあの日の翌週、上流域だったらしい。
それは枝に掛かっていてバスが枝に掛けて外したようだったとのこと。
実はあの日、自分も下流だけでなく上流にも近づいたけど水位の関係で辿り着けなかった。
すぐそこまで行きながらもUターンしていたことを思うとグッとくるものがある。
バスの口から離れるのにそれほど時間がかからなかったとすると半年もの間、誰にも回収されることなくそこにあり続けたことになる。
よく考えるとその水位によって守られていたのかもしれない。
連絡を取るうちにこれも何かの縁と、拾い主の粋な計らいで価格を送料分に変更して再出品していただけることになった。
取引キャンセルの承認依頼の通知が入り、そこの理由には 元の持ち主へ返却 と。
胸が熱くなった。
*
凄まじい歯形が刻まれているけど、見覚えのある補修跡もある。
掌にあるのは紛れもなく自分のヴァンガードだ。
思わず握りしめた。
歯形からはあのバスが自力で外すのに随分と奮闘したことが伺える。
回収は出来なくとも、せめてバスの口から離れていてくれれば…と思っていたけどやっぱりブラックバスは凄い。
そんなことを思いながら丁寧に2種の研磨剤で磨いて、研いだイーグルクローの1番を取り付け、また掌に乗せる。
まさか半年以上も経ってから手元に帰ってくることになるなんて。
拾ってくれた方、失くしたとき心配のご連絡をくださった方、実際に探してくださった方、みなさん本当にありがとうございました。
*
少し緊張しながらロッドをあおる。
身をよじり、シルバーを煌めかせながら左右に堂々と、そして滑らかに伸びていく姿はまさに自分のあのヴァンガードだった。
手持ちのヴァンガードの中でも特別お気に入りの動きが出せるあのCCRBのヴァンガードだ。
おかえりなさい。
追伸
嘘のように出来すぎている話には続きがあって
早速そのヴァンガードで怪物をバラした。
前後のフック両方とも掛かっているのを確認して、ジャンプを許したらいとも簡単に外された。
また忘れられない光景が増えたが、止まっていた時間は2匹の逃したビッグバスで繋がれたようにも思う。
帰り道、釣り熱が沸々と湧き上がるのを感じた。
Comments
Post a Comment